話し合いを避けることが、“争いの準備”になる
あるご家庭での話です。
不動産を複数所有しているお父さんに、「今のうちに家族で話し合いましょう」と伝えたところ、返ってきたのはこんな言葉でした。
「俺が生きてるうちに子どもたちがもめるのは見たくない。死んでからもめてくれればいい」
冗談のように聞こえますが、これは意外と本音かもしれません。
しかし、もし本心なら、それは「無責任」とも言える態度です。
問題を先送りし、自ら“火種”を残す行為でもあります。
たしかに、親としては「子どもたちが争うのを見たくない」という気持ちは理解できます。
でも、だからこそ本当に大切なのは、「今のうちに話し合うこと」です。
避けて通るのではなく、“争いを起こさない準備”をすることが、真の意味での家族への思いやりではないでしょうか。
家族で決める分配ルールと、生前にこそできる終活
相続のルールというと、つい「遺言書を書いておけば大丈夫」と考えがちです。
たしかに遺言書は法的に有効な手段ですが、それだけではすべてが解決するわけではありません。
たとえば――
・「この遺言は、誰かがそそのかして書かせたのでは?」
・「なぜ自分だけ分け前が少ないのか」
・「これまで親の介護をしてきたのに…」
こうした感情のもつれや不信感は、たとえ法的に正当な遺言であっても、家族関係を崩壊させてしまうことがあります。
最悪の場合、親の死後に兄弟姉妹の関係が断絶し、“親族なのに他人”になってしまうことすらあります。
ではどうすればいいのか?
理想的なのは、被相続人と相続人全員が生前に集まり、「不動産や財産の分け方」について話し合うことです。
このとき、「不動産のエンディングシート」などを活用し、所有している資産の全体像を共有すれば、冷静で現実的な議論がしやすくなります。
そしてもうひとつ、大事なのは被相続人本人が“意思能力があるうち”に話し合いを行うことです。
意思能力が失われてしまえば、誰も本人の意志を確認できず、法的にも手続きが複雑化し、結果として財産の損失や相続人間の争いに発展するリスクが一気に高まります。
納得したら公表を。家族で共有する“未来の約束”を
分配のルールが話し合いで決まり、家族全員が納得したら――
次はそれを明文化し、公表することが重要です。
この段階で、遺言書を作成することは有効です。
しかし、多くの人は「生前に遺言の内容を家族に知られると、もめごとになりそうだから」と、あえて秘密にしておくことを選びがちです。
ですが、家族全員で話し合って納得して決めた内容であれば、公表することこそが“争いを防ぐ最後の仕上げ”になります。
そして、その内容が書面として残され、相続人全員が確認していれば、後から異議が出る可能性も大幅に減ります。
もちろん、すべての家族が理想的にまとまるわけではないでしょう。
さまざまな事情、複雑な人間関係があるかもしれません。
でも、何もせず・何も伝えずに亡くなり、「もめさせる」のは最悪のシナリオです。
「死んでからもめてくれればいい」
そんな無責任な言葉が現実にならないように。
不動産の終活とは、“もめない未来”のためにできる最善の準備なのです。